僕がゴールドマンサックスを辞めた理由:Why I Am Leaving Goldman Sachs - Greg Smith



Following Google exec, Goldman Sachs's Greg Smith left his resignation essay on NY Times Op-Ed that gained 3million view (Day-1), wiping out $2.15 billion of  market value (Day-2).  GS has since regained (Day-3). Why?  Maybe as Washington Times says, "Goldman Sachs has been in and out of trouble throughout its 143 years — chiefly because it chose to put its own interests before those of its clients." So, there's nothing new here.  Sad...

グーグルに続き、14日にはゴールドマンサックスのデリバティブ・トレーダーが辞任理由をNYタイムズに掲載し大騒ぎだったね。鉄壁の秘密主義で知られるGS社員が内部告発するのはこれが初めて。1日で300万PVつき、翌日GS株は急落、同社時価総額は1日で21億5000万ドル(1793億円)減った。翌日は戻してるけど、これは失業率改善の影響と、たぶんワシントン・タイムズが書いてるようにGSが客より自社利益優先なのは今に始まったことではなく創業143年来の伝統芸だから今さら驚く方がおかしいっていう反応…それも悲しいね。

Goldman Sachs Group, Inc. (c) Google Finance


Why I Am Leaving Goldman Sachs

BY GREG SMITH, March 14, 2012


今日でゴールドマンサックスも最後。スタンフォード在学中に夏のインターンで働いたのが最初で、その後はNYで10年、現在はロンドン――かれこれ12年近く働いた会社だから、ここのカルチャー、人、アイデンティティーの辿ってきた軌跡はよく理解しているつもりだ。正直、今の状況はこれまでになく毒(toxicには不良・焦げ付きの意もある)と破壊に満ちている。

問題をひとことで言うと…会社が金儲けを考える上でずっとクライアントの利益が後回しになっているのだ。ゴールドマンサックスと言えば世界最大かつ最重要な投資銀行のひとつであり世界の金融には欠かせぬ存在。それがこんな振る舞いを続けていいわけがない。大学を出て新卒採用された頃の会社の立ち位置からは大幅に軌道がずれてしまい、今の会社の立ち位置が自分と同じだとは良心に誓って言えないところまできてしまった。

もともと胡散臭く思ってる人には心外に聞こえるかもしれないが、ゴールドマンサックスの成功を支えてきたものはカルチャー(社風)だ。チームワーク、誠意、謙虚の心、常にクライアントの側に立って正しいことをする。このカルチャーという秘伝ソースがあったればこそ、ここは素晴らしい会社になれたし、我々も143年の長きに渡ってクライアントの信用を得ることができたのだ。金儲けだけで会社はここまで長続きしない。やはり組織に対するプライドと信念がないと。だが、こんなこと言うのは悲しいが今こうして周りを見回しても、自分が長年愛した会社の面影はどこにもない。今の自分にはもはやプライドもない。信念も。

ずっとこうだったわけじゃない。僕は採用候補者をリクルートし、あの地獄の面接をクリアできるまでメンターとして相談に乗る仕事も10年以上やった。リクルート用ビデオに出演する社員10人にも(全社員3万人以上の中から)選ばれ、その映像は我々が回る先々の世界中の大学のキャンパスで流された。2006年には数千人の応募の中から選抜された大学生80人をNYの営業・トレーディングで夏期インターン採用するプログラムの管理者も務めた。

そんな自分が辞める潮時だと悟ったのは、もう学生の目を見て、こんな素晴らしい職場はないよ、って言えなくなってる自分に気づいた時だった。

ゴールドマンサックスの歴史を本にまとめる人がいたら是非、現CEOのロイド・C.・ブランクファイン(Lloyd C. Blankfein)とプレジデントのゲアリー・D.・コーン(Gary D. Cohn)の監督下でこの会社本来のカルチャーが喪失してしまったことも考察に含めてもらいたい。僕は今社内で起こっているモラルの凋落こそが、会社の長期存続を揺るがす唯一最大の脅威だと本気で信じている。

在任中は世界最大級のヘッジファンド2件、米国最大級のアセットマネジャー5件、中東・アジア最大級の王家ファンド3件の顧問を担当する機会に恵まれた。僕のクライアントの資産ベースを合計すると1兆ドルを超える(83.3兆円超)。僕は常にクライアントの身に立ってアドバイスすることに大きな誇りを抱いてきた。たとえそれで会社の取り分が減っても、だ。が、こうした姿勢はゴールドマンサックス社内でますます不人気になっている。これも辞める潮時を告げるサインだ。

どうして我々はこうなってしまったのか? 

会社はリーダーシップに対する考えを曲げた。昔はアイディアを持って、範を示し、正しいことをやる、それがリーダーシップだった。今は会社を儲けさせてやればそれだけで(斧で首切る現行犯でもない限り)力のあるポジションに昇進できる。

では、リーダーになる3つの最短コースとは何か? 

a) 会社の「斧(axes)」を使う。斧とはゴールドマン語で、クライアントをうまいこと説き伏せて潜在的利益が薄くて売っ払ってしまいたい株・商品に投資させることを指す。

b)「象狩り(Hunt Elephants)」。これはそのまんまの英語だ。クライアント(中には金融に詳しい人もいるが詳しくない人もいる)を捕獲し、なんでもいいからゴールドマンに最大の利益をもたらすトレードをさせることを指す。古いと言われるかもしれないが僕は、自分のクライアントに正しくないものを売りつけるのはあんまり好きではない。

c) 非流動的(=現金化しにくい)で、実体不透明な、頭文字3つの商品、そのトレード担当の座にありつく。




こういう今のリーダーには、ゴールドマンサックスのカルチャーのカの字もない人が多い。デリバティブの営業会議に出るとそこでは、どうしたらクライアントを助けられるか、という質疑には1分だって割かれない。どうしたらクライアントから最大の金をむしり取れるか、という相談ばっかりだ。火星からきた宇宙人があの会議に出たら、そうかそうか、クライアントの成功とか成長は全く考慮されないものなんだな、と思うだろう。

みんな自分のクライアントから金を騙し取る話を平然とするのだ。あれにはまったく反吐が出る。この1年、自分のクライアントを「muppets(操り人形、でくの坊、とんま)」呼ばわりする常務には5人遭遇した。中には社内メールでそう呼ぶ常務もいた。

証券取引委員会(S.E.C.)、Fabulous Fab、Abacus、God’s workCarl LevinVampire Squidsの後でもコレ。謙虚の心は? いやだからさ。誠意は?  腐りきってゼロかい。

違法行為のことは僕は何もわからないが、一番簡単な投資でも、顧客の目標に一番沿う金融商品でもない、複雑で有利な商品を売り込んでいいのか? と思ってしまうが、これが売り込むのだよ。それも毎日毎日。

「クライアントの信用を失えば、クライアントの方から離れていく」―そんな当たり前の真理も、うちのトップマネジメントは考えようとしない。あれにはただ呆れるばかりだ。頭の善し悪しの問題ではないんだね。

最近、ジュニア・アナリストからデリバティブのことで一番良く訊かれるのは、「あのクライアントからうちはいくら儲けたんですか?」―あれはほんとに訊くたびに気が滅入るよ。上司から彼らが行動規範として何を学び取っているか、そこに如実に現れているからね。「muppets(操り人形、とんま)」とか「目ん玉くり抜いちまえ」とか「getting paid(相手にベッドに誘われるgetting laidをpaidにしたオヤジギャグ)」とかいう言葉が飛び交う部屋の片隅で黙々と座ってるジュニア・アナリストが10年後どうなってるだろう? おそらく模範的人間には育ってない。そんなことロケット科学者じゃなくても想像がつく。

僕がアナリスト1年の時は、トイレがどこかも知らなかったし、靴紐の結び方も知らなかった。ロープの結び方はきっちり学べ、と教えられた。デリバティブとは何か自分なりに考え、金融に精通し、クライアントを知り、彼らのモチベーションを知り、彼らの考える成功の定義がいかなるものかを学びとり、そこに到達する上で我々に何がお手伝いできるか考えろ、と教わった。

自分の人生で一番誇れる思い出(サウスアフリカから全額支給の奨学金を得てスタンフォード大に入ったこと、ローズ奨学制度全国代表ファイナリストに選抜されたこと、イスラエルのマカビア競技大会(通称ユダヤ五輪)で卓球の銅メダルをとったこと)はどれもみんな近道をせず、コツコツ努力を積み重ねて手にしたものだ。今のゴールドマンサックスは近道ばかりで、努力の成果が十分には評価されていない。これでいいとは、とても僕には思えない。

本稿が警鐘になって役員会が目を覚ましてくれれば、と願ってる。クライアントをビジネスの中心に戻して欲しい。クライアントがいなくなったら、あなたたちは金儲けもできない。それどころか存在だってできない。モラル的に壊れた人間は間引くこと。会社を儲けさせてくれる金額の大小に関わらず。そしてカルチャーを正しいものに戻し、正しい理由で人が働きたいと思う会社にして欲しい。金儲けのことだけ考える人間が会社(クライアントの信用)を支えても、そんなに長続きしないだろう。


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Greg Smith氏は本日をもってGoldman Sachsエグゼクティブディレクター、欧州・中東・アフリカ地域米国エクイティデリバティブ事業トップの職を辞める。


*Fabulous Fab:ゴールドマン社員がサブプライムローン危機の前に危機が来ると知って売りまくってた実態が彼女とのメールで判明し国会に証人喚問された事件
*Abacus:値下がりが予想される金融商品ABCUSを空売りし顧客に1000億円の損害を与えた事件。日本語解説
*God’s work:タイムズロンドンが「社員報酬もらい過ぎ。上限を設けるべきではないか」と尋ねたところ、ロイド・ブランクファインCEOが「我々は神の仕事をしているのだ」と答え顰蹙を買った件
Carl Levin:国会が金融危機原因調査を2年がかりで行い、座長のカール・レヴィン上院議員がGSが国会を騙した、と告発した件
Vampire Squids:ゴールドマンサックスは吸血タコ、金の臭いのするところどこにでも手を伸ばし人の生き血を吸う、というローリングストーン渾身の告発記事。例えばブッシュの財務長官ヘンリー・ポールソン(元CEO)は血税を何兆ドル分も「政府救済策」として友人にバラ撒き、クリントン元財務長官ロバート・ルービン(GS元役員、シティグループ会長)は3000億ドル、ジョン・タイン(GS元社員、メリルリンチCEO)もバンク・オブ・アメリカ経由で数億ドルもらった…などなど。読んでると目眩。

  [Why I Am Leaving Goldman Sachs]


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