ネルソン・マンデラは米国の敵だった:Don't Sanitize Nelson Mandela: Honored Now, Hated Then @PeterBeinart


Don’t Sanitize Nelson Mandela: He’s Honored Now, But Was Hated Then

BY Peter Beinart, The Daily Beast 

死んで、もう厄介事も起こさないから、みんなネルソン・マンデラを聖人のように追悼しているが、つい最近までワシントン政界上部は氏を米国の敵と見なしていた。なぜか? それも思い出せない人に氏のレガシーを語る資格はない。

1980年代後半、ロナルド・レーガン大統領はマンデラ率いるアフリカ国民会議(African National Congress:ANC)を米政府公認「テロリスト」集団のリストに加えた。1985年ディック・チェイニー下院議員(当時)はマンデラ釈放を求める法案に反対した。2004年、マンデラがイラク戦争を批判するとNational Reviewはこう書いた
「長年共産党に傾倒しテロリストを崇めてきた人だ、反米感情を剥き出しにしてサダム・フセイン支持を表明したところで今更驚くことでもないだろう」
ANCがアメリカのテロ警戒リストから外されたのは、実に2008年になってからだ。マンデラが89歳で訪米した折には国務省から特別例外措置を取り付けなければ入国できない状態だった。

彼ら的には、氏を疑う真っ当な理由があった。「テロリスト」と呼んだのは、反アパルトヘイト(人種隔離政策)のレジスタンスで武装したから。「共産主義者」と呼んだのは、ANCを国外から支援した最大勢力がソ連で、国内で一番近い政党が南ア共産党だったからだ。マンデラを中傷するアメリカ人には、マンデラ自身が自分を米国の権力の同盟ではなく敵*と自覚していることがわかっていた。マンデラを敬うアメリカ人が今思い返すべきことは、そこなのではないだろうか。

ワシントンでは政治家も評論家もよく「冷戦は米国が支持する自由勢力とソ連が支持する圧政勢力との戦いだった」と呑気に言う。ドイツ、東独、朝鮮はそうかもしれないが、南アフリカでは何十年もの長きに渡って反共産主義の名のもとアパルトヘイトを支持したのは米国大統領だった。冷戦の文脈の前にはモラルもなにもない。1981年にはレーガン大統領が南アの極悪政権こそが「自由な世界のために必要不可欠」だと本気で言ってたぐらいだ。

南アでANCの反アパルトヘイト運動を助けたのは、自分の国では酷い圧政を敷いてるソビエト共産政府サイドだった。1980年代にはソビエト陣営に、南アの自由解放闘争を冷戦の色眼鏡で見ることを拒む米国・欧州の反アパルトヘイト運動家たちが加わった。レーガンやチェイニーのような連中が「マンデラはワシントンとモスクワのどっちの味方なのだ」ということしか眼中になかった当時、「ANCはソビエトが支援している共産主義の影響が強い党だが、それでも自由解放運動を率いる資格はある」と西側の何百万人もの市民が主張したのだ。

彼らは正しかった。マンデラは他国のことに関しては左翼繋がりで蒙昧し、共産主義の犯罪が目に入らないところもあった。1991年にはあの(専制君主の)フィデル・カストロを「自由を愛するすべての人々に啓蒙を与える人」と呼んだこともある。が、国内ではANCは民主主義を求める純粋な多民族運動だった。つまり南アの自由解放を支持したアメリカ人は、米国の地政学的利益と自由を同義語と捉えない視点の人たちだった。

マンデラから今アメリカ人が学ぶべき真の教訓は、ここにあると思う。冷静は終わったが、小さな冷戦は今も続いている。アメリカのエリート、特に右翼は、米国の権力にプラスになるものはなんでも「自由」と呼ぶが、あれは悪い癖だ。経済制裁で締めあげてイランの人々を貧窮させ、爆弾落とすと脅し、それもこれも彼らの自由のためだと言う。イラン国内で民主化に命賭けで取り組んでいる人たち—反政府のジャーナリストAkbar Ganjiノーベル賞受賞者Shirin Ebadi―があれだけ懸命に反対しているにも関わらず。

これに異を唱えたのがマンデラだ。マーティン・ルーサー・キングは「ベトナムは民主化のための戦争だ」というリンドン・ジョンソンの主張を公然と否定したが、 あのキング牧師のようにマンデラもイラク戦争を理想主義で正当化するジョージ・W.・ブッシュを拒絶した。2003年、ブッシュがイラク国民解放をPRすると、マンデラは「彼が欲しいのはイラクの原油だけだ」と言った。ブッシュが「イラクの核武装化は地球人類の脅威だ」と宣言すると、マンデラは「実際に原爆投下した国はアメリカだけだ」とリマインドした。「純真無垢なふりはやめろ」―マンデラの米国の大統領へのメッセージは明白だった。

キング牧師同様、マンデラも浄化されたアメリカの聖人君子の殿堂に祀りあげられるにつれ、こうした破壊分子としての側面が記憶から消されようとしている。しかしアメリカ人に今一番必要なのはこういう側面だろう。米国の権力と個人の自由は別物だ。クロスすることもあれば、しないこともある。ネルソン・マンデラの生きた足跡を辿るには、その違いがわからないといけない。

*訳注:マンデラ逮捕の折、氏の居場所を南ア政府に密通したのはCIAだった。


[The Daily Beast]

Nelson Mandela, 1918-2013, Freedom's Fighter

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