マイクロソフトがスカイプを買収した理由:Why Microsoft bought Skype - @cringely


Microsoft bought Skype to keep Google from buying Skype. - Robert X. Cringely

Why Microsoft bought Skype

BY Robert X. Cringely

(訳)取り上げたい話は沢山あるが、まずはマイクロソフトがスカイプを85億ドルで買収した話題から。評論家の間ではマイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOのビジネス判断が妥当かどうかを巡って喧々諤々だが、それは間違った見方で、もっと良いのは「マイクロソフトがスカイプを買ってなかったらどうなったか?」という方向から検証するアプローチ。あれだけの高値を出したことひとつ見ても、バルマーには買収以外チョイスがなかったことがわかる。いや、買収しないとマイクロソフトに未来はないとまで思ったはずだ。

スカイプと言えば、eBayが数年前に26億ドルで買収したものの大して儲からず、大型の損金処理を行って、会社の残りほとんどをプライベート・エクイティ・ファームに売り飛ばした部門だ。ほんの1年前にはeBayの買収額より安い値で別の買い手の手に渡った。それがいきなり3倍に跳ね上がるなんて一体この1年で何が変わったのか? …と思ってしまうが実は日々の業務レベルでは何ひとつ状況は変わっていない。純粋に財務実績だけで言うなら、スカイプに85億ドルなんて価値は毛頭ない。が、企業のチェス盤の戦況はこの2年でガラリと様相が一変したのである。それに照らすと、この買収がマイクロソフトにとって戦略的に意味あるものだということが見えてくる―。

バルマーとマイクロソフトは今まさにティッピングポイント(あと1滴で水が決壊し、世の中の流れがなす術なく変わる臨界点)にある。バルマーにはそれが分かっているのだろう。マイクロソフトは今も巨大で強力で金持ちだ。が、最大、最強、最も金持ちというわけではない。反トラスト法裁判の同意判決に基づく法務省のマイクロソフトの監視が今週終わったのも単なる偶然ではないのである。今のレッドモンド(マイクロソフト)にはかつて競合に脅威と恐れられた当時の面影はない。ここから会社は上り坂か、さもなくば下り坂。バルマーが恐れているのは落ちて、落ちて、落ちぶれていくことだ。マイクロソフトはまだまだ死ぬほど儲かる会社だが、ひょっとして先細りの市場で乳搾りに励んでいるだけなのかもしれない。

バルマーには、乳を絞る新市場が必要。

その新市場がもしかして電話通信なのかもしれない。通信の統一化が進んで、旧電話会社からマイクロソフトが市場シェアと時価評価を吸い上げる未来展望をここで長々と一章書くこともできる。通信統一化は既に起こっていることだし、それで誰かが利益をあげるならマイクロソフトでなんの不足があろう? でもやっぱり書かないでおこう、マイクロソフトやバルマーがそこまでスマートだとは思わないので…。彼らはもう自信を失ってしまっているのだ。マイクロソフトはもはや自分がゲームの覇者だとは思っていないし、支配できるとも思ってない。さらに悪いことにゲームのルールさえ知ってるという自信がない。だからひたすら守りの姿勢に回っている。その防衛ブロックの色が最も鮮明に出たのがこのスカイプ買収だった。

マイクロソフトはグーグルにスカイプを買われたくないから、スカイプを買った。

そう、アップルの名は敢えて出していない。市場で一番目障りな野郎という意味ではアップルの右に並ぶものはないが、あそこは他とだいぶ違う道を進んでいるので、アップルが次のマイクロソフトになることはない。アップルは次の何者でもない。なぜならアップルが目指す役目は、ことごとくマイクロソフトの想像の裏をかき超越することだから。グーグルは次のマイクロソフトだ。だからバルマーもグーグルのことは直接の脅威と見る—この小僧をなんとかすればなんとかなると望みを繋いでいるのだ。

そんなグーグルとマイクロソフトを打ち負かして最後に笑うのはアップルなんじゃないかという話もあるが、それは今日の話題とは別の機会にしよう。

仮にグーグルがスカイプを買収していたら、どうか? スカイプ利用者6億6300万人がGoogle VoiceとGmailに移植され、YahooとMSNは取り残されてしまうだろう。優れたSkypeクライアントがAndroidのDNAに直接組み込まれ、電話会社の収入は干上がり、Windows Phoneのような小さなプレーヤーは悶死だ。Cisco(Linksys)やNetGearと提携を結んで、電話会社はもとよりケーブル会社からも音声通信の収益を盗むだろう――こうして書くとまるでレッドモンド的振る舞いだが、バルマーのことだからレッドモンド的振る舞いはこのレッドモンドがキッチリやらねば、と考えているのだろう。

マイクロソフトが今後も成長を続け、ポストPC時代にも存在を続けるためには、一にもニにもモバイル市場に食い込まないとだめだし、バルマーにはそれが分かっている。スカイプを買収したところでその成功が得られるという保証はない。が、スカイプを買収しないでいたらマイクロソフトの失敗は保証されたも同然だ。

だからって85億ドルも払うか? と思ってしまうが、あれは事実上グーグルが決めた値段なのだ、マイクロソフトではなく。スカイプ買うためならバルマーはそれこそいくらでも出しただろう。85億ドルという値は単に、グーグルが「そんなに払うぐらいなら自分で開発した方がいい」と思う値だったというだけの話。

同化するMicrosoftと構築するGoogle―今後この分野も動きが活発化していくことが予想される。両社ともさらに買収を進め、何度でも戦略的再編をやるだろう。ただし忘れちゃいけないのは、どっちとも実際の支配権は握っていないことだ。勝負は決着には程遠い。のみならず、どっちも覇者になれない可能性もある。

これで終盤と思ったら大間違いで、まだ勝負はこれからだ。


[Why Microsoft bought Skype @cringely]

UPDATE: BBC News - Microsoft's Bill Gates says he advocated Skype takeover
スカイプ買収はビル・ゲイツが強引に押し切ったんだって。ゲイツ本人がBBCのインタビューで明らかにした。

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